近年「データサイエンス」という言葉はすっかり一般的になりました。
AIやDXの加速により、企業がデータを意思決定に活かすことはもはや必須となっています。しかし現実には、専門的なデータサイエンティストを確保できる企業は限られています。そこで注目されているのが「市民データサイエンティスト(Citizen Data Scientist)」という考え方です。
私自身、現場に常駐しながらExcel・BI・統計の知識を活かし、企業のデータ活用を支援してきました。その中で感じるのは、“専門家に頼るだけではなく、現場の社員一人ひとりがデータを扱えるようになることこそが、組織のデータ活用力を底上げする”ということ。
本記事では2025年の最新動向を踏まえつつ、市民データサイエンティストの定義、育成メリット、具体的な実践事例を紹介します。
市民データサイエンティストとは、データ活用を本職としない人材が、手元の業務課題を解決するためにデータ分析や可視化を実践できる人を指します。
たとえば営業部門の社員が自らBIツールで商談データを可視化したり、バックオフィス担当者がExcelとPower Queryを駆使して月次レポートを自動化したり。これらはすべて「市民データサイエンティスト」の活動です。
両者は役割が異なるだけであり、互いを補完し合う関係です。
専門家と現場をつなぎ、データ活用を前進させる存在こそが、市民データサイエンティストです。
市民データサイエンティストという言葉は聞いたことがあっても、なぜ今これほど注目されているのか――。
その背景には、日本企業が直面しているいくつかの課題があります。
経済産業省の調査では、国内のデータサイエンティスト人材は2030年までに数十万人規模で不足すると予測されています。すべてを外部採用やコンサルに頼るのは現実的ではありません。
「来週の営業会議までに分析が必要」「現場の声をすぐに可視化したい」など、現場はスピードを求めます。中央のデータ部門に依頼して待つのでは遅すぎるのです。
Power BI、Tableau、Looker StudioといったBIツールや、ChatGPTをはじめとする生成AIが登場し、専門知識がなくても高度な分析が可能になりました。
これらの背景から、市民データサイエンティスト育成は「待ったなし」のテーマとなっています。
私自身、現場で支援していて実感するのは、ひとりでも市民データサイエンティストがいるかどうかで業務改善のスピードが大きく変わるということです。では、その育成がもたらす効果を順に解説します。
現場の人がデータを扱えるようになると、「売上の動き」や「在庫の状況」を自分たちでチェックできます。
小さな工夫でもすぐに仕事に活かせるので、改善のスピードが速まります。
これまでは「経験や感覚」で決めていたことも、データを使えば数字で裏付けられます。
社内の会議でも「なぜこの施策をやるのか」が説明しやすくなり、納得感が高まります。
データ分析の専門家は数が少なく、依頼してもすぐ対応してもらえないこともあります。
社内に「データが分かる人」がいれば、日常的な分析は自分たちでできるので、時間もコストも節約できます。
データを扱えるようになること自体が、社員にとって大きな武器になります。
将来的なキャリアにもプラスになるので、学ぶモチベーションも高まりやすいです。
データを共有しながら話せると、営業・人事・経理など部署をまたいだ会話がスムーズになります。
共通の“ものさし”を持てるので、会社全体での意思決定も速くなります。
まずは「データ分析=難しいこと」という壁を取り除くことが大切です。
Excelでの簡単な集計やグラフ化などから成功体験を重ねることで「自分にもできる」という自信が生まれます。
次に、業務に必要な基礎スキルを習得します。
Excel関数・ピボットテーブル
データの整理(整形や欠損値対応など)
BIツールの基本操作
これらを体系的に学ぶことで、データ活用の「土台」ができます。
「学んだスキルをどう活かすか?」を考えるフェーズです。
研修用の架空データではなく、自分の部署のリアルデータを題材に分析することで成果に直結しやすくなります。
いきなり大きな改革を狙うのではなく、月次レポートの自動化や簡単なダッシュボード作成など小さな改善から始めます。改善の効果を数字で示すことで、本人も周囲もメリットを実感できます。
2025年の育成では、ChatGPTなどの生成AIを活用することも欠かせません。
SQLや関数のヒントをAIに聞く
グラフの解釈をAIに補助させる
レポート文案をAIに下書きしてもらう
こうしたサポートをうまく取り入れることで、ハードルが大きく下がります。
成功事例をチーム内や社内全体に共有することで、他部署にも「やってみたい」という機運が広がります。
社内勉強会やナレッジ共有の仕組みをつくるのも効果的です。
市民データサイエンティストが現場分析を担う一方で、専門家と連携するとさらに深い分析が可能になります。
「現場の声」と「高度な知見」を組み合わせることで、組織全体のデータ活用レベルが引き上がります。
ここからは、市民データサイエンティストが実際にどのように活躍しているのかを見ていきましょう。
現場での取り組みと成果を具体的に紹介します。
背景
全国に店舗を展開する小売企業では、店舗ごとにExcelで売上を管理していました。しかし、集計方法がバラバラで、全社的な視点で「何が売れているのか」「どこに在庫が偏っているのか」が見えづらい状態でした。
取り組み
市民データサイエンティストとして選ばれた数名の店舗マネージャーが、Power BIの研修を受講。売上データをクラウド上で一元管理し、店舗別・商品別・時間帯別に可視化するダッシュボードを構築しました。
背景
ある中堅企業では、人材育成や配置のための社員データは存在していたものの、活用されずに眠っていました。
人事部は限られた人数で日常業務に追われ、データ分析にまで手が回らなかったのです。
取り組み
バックオフィスの担当者が市民データサイエンティストとして育成され、タレントパレットとExcelを連携。社員のスキルや資格、研修受講歴を一覧化・可視化しました。さらにPower Queryを用いて更新作業を自動化。
背景
ある製造業の現場では、不良品率の管理を月次でまとめていたため、原因分析や改善が後手に回っていました。
現場スタッフからは「もっと早く対策したい」という声が上がっていました。
取り組み
現場のスタッフが市民データサイエンティストとしてBIツールを習得。
不良品の種類や発生ライン、時間帯ごとの発生率を日次で入力し、自動集計する仕組みを構築しました。
背景
営業部門では、どの施策が新規顧客獲得につながっているのか把握できず、広告や展示会への投資効果が不透明でした。
取り組み
営業担当者がBIツールを用いて、リードの発生源と受注率を可視化。
さらにChatGPTを活用し、「どのチャネルが成果に直結しているのか」をレポート化。
生成AIの進化により、市民データサイエンティストはますます活躍の場を広げるでしょう。AIが自動でダッシュボードを作成し、自然言語で「先月の売上要因を教えて」と尋ねれば答えてくれる未来はすぐそこです。
ただし、「どのデータを使い、どんな問いを立てるか」は人間にしかできません。
AIが答えを出す時代だからこそ、現場を理解した市民データサイエンティストの価値は高まっていくのです。
市民データサイエンティストとは、専門家ではないけれど、現場でデータ活用を実践できる社員のことです。
育成することで、
業務改善が加速する
データ文化が根付く
専門家リソースが有効活用できる
社員のキャリア成長につながる
といった大きなメリットがあります。
私たち「データ女子」も、まさにこの市民データサイエンティスト育成を現場で支援してきました。
小さな改善の積み重ねが、大きなDXの推進力になります。
今こそ「一部の専門家に任せるデータ活用」から「全員が参加するデータ活用」へシフトするタイミングです。
コクー株式会社では、Power BI、Tableau、Looker Studio など多様なBIツールに精通したスタッフが、データクレンジングからダッシュボード構築までをワンストップで支援しています。
整ったデータは、正しい分析と素早い意思決定を生みます。
そして、それを現場で“使いこなす”まで伴走できるのが、私たちデータ女子の強みです。